小説読後の記録棚

宇谷が小説を読んで抱いた感想を書いていきます。

『盤上に君はもういない』 綾崎隼

情報

長編。前人未到の女性棋士を目指す2人の女性(諏訪飛鳥・千桜夕妃)を描いた物語。


感想

将棋一家に生まれ、将棋のためだけに生き、女性初の棋士を目指す少女、諏訪飛鳥。彼女の取材を行う記者、佐竹亜弓の視点から物語が始まる。最初の一文を読んで、「うわ、なんやこれ、こてこてな始まり方やな…」と思い警戒しながら字を追っていったのですが。あれよあれよと知らぬ間にのめり込んでしまってもう大変。勢いのままに1日で読了していました。

正直感想を書くにあたって自分が警戒していたのを思い出したレベルで、もう途中からはただただ先が気になって仕方なかった。


この話の主軸は2つあって、1つは女性2人が棋士を目指す、というもの。もう1つは千桜夕妃の『ある行動』について追っていく、というもの。正直ここら辺(特に後者)は書くとネタバレになる事が多すぎる。全然言及できない。ので、自分が面白かったポイントでもメモっていこうと思う。


まず、登場人物が魅力的。特に飛鳥とそのライバル、竹森稜太。負けん気の強いまっすぐな女の子にはそりゃあ惹かれる。飄々と勝利を収めながらもどこか憎めない天才少年稜太も好きだ(ゲーム好きなのも好感度高し)。2人のやりとり本当に面白い。


そして、将棋についての説明がとても分かりやすかった。正直理解できているかと聞かれると「うーーーーん?」という感じだけれど登場人物の置かれている状況はすんなり頭に入ってきた。たまに見る大盤解説や対局中の様子が脳内に浮かんできてとても楽しかった。


最後は視覚的に浮かんできた、こと。読んでいてその様子が簡単に脳内で視覚的に再生できた。小説を読みながらメディア化するならどうなるだろうなぁと考えたりもしていたけれど、どうかなぁ。ドラマというより映画なイメージ。


やっぱり内容についても書きたくなってきた。少しだけ。

とにかく、おもしろかった。特に最終章前までがすごく面白くてページを捲る手が止まらなかった。誰が勝つのかという逼迫した空気や勝負への熱い想い。わくわくして止まらなかった。私は将棋の定石をほとんど知らないのでこれを機にちょっと齧ってみようかなぁと思いました(笑)。そう思うくらい登場人物の気持ちが熱いんです!

最終章からは…正直なところ、私はスローダウンしました。ある謎が紐解かれていくのだけれど、そこに関してはなんというか、ある程度予想できていたのもあってドロドロした物を咀嚼していく作業になってしんどかった。それと、ちょっと納得できない部分もあり…。とはいえ最後は救われる終わり方だったので良かった。


Twitter辺りで話題になっているのを見かけて表紙の絵も好みだし読んでみようかなぁと思ったのがきっかけ。将棋は大の苦手なので楽しめるのかな…?と思っていたけれどそんなことはなかった。前述したように定石を知らないけれど、知ったら楽しそう…!と思わされる本でした。コンピュータゲームとして楽しむのは確かに楽しそう。


1日のうち空いた時間を全て本に回すのは久しぶりだったなぁ。「早く!続き!」となる本に出会えるのは良いですね。最高。次は何を読もうかなぁ

『ペルシャ猫の謎』 有栖川有栖

 

情報

臨床犯罪学者火村英生と推理作家有栖川有栖のコンビが活躍する「火村英生シリーズ」。

この本はエラリィのシリーズをオマージュした「国名シリーズ」の5冊目。短編集です。

 

率直に感想

シリーズの中でもこれは異色だと思う。

有栖川有栖の火村シリーズは他のシリーズに比べれば好んで読んでいる方だと思うので、ある程度シリーズの雰囲気というか空気は分かっているつもりなのですが…何分、いつもと違う要素が多く戸惑った、というのが率直な感想ですね。火村シリーズは短編集が多く、メインコンビの火村とアリスの掛け合いも楽しい上にトリックもなるほど!と思える、サクッと読めるミステリな印象なのですが…。解説で外伝的な話が多い、と書いてらっしゃった(はず)ように、いつもとテイストの違う作品が多かったです。

本格ミステリを求めてきた人にはちょっと物足りないかも?(私はその点では物足りなかったです)

でも、火村英生を少し掘り下げた話や森下さんが主人公の話もあるので、ちょっとしたスピンオフ感覚で読むと楽しいんじゃないかなあと思います。

 

短編集はあんまり触れすぎるとネタバレになってしまうので、収録話の紹介などを軽く。

 

収録話

切り裂きジャックを待ちながら」

 切り裂くジャックをオマージュした演劇のお話。救えない。

 

 「わらう月」

これは「なーるほど」となりました。最後の二行がいい。

 

 「暗号を撒く男」

「ドラマのはこれかーー!!」と先にドラマを見たことを後悔。そのため物足りなかったです…無念。

 

「赤い帽子」

森下刑事が主役の話。いつになく「刑事ドラマ」感の強い作品。

 

「悲劇的」

ミステリ要素はなし。火村英生の掘り下げ話。

 

ペルシャ猫の謎」

「まーじか」な結末。ちょっと納得いかなかった。

 

「猫と雨と助教授と」

 ほんの5ページの短い作品。日常の一部を切り取ったもの。

 

以上。 

改めて振り返ると、ミステリ要素よりはエンタメ要素が強い気がしますね。この中でもやっぱり惹かれるのは森下さんが主人公の赤い帽子かなあ。地道に捜査をする刑事ドラマな感じで私の好きなタイプでした。でも、ミステリかっていうと…どうなんでしょう?そもそも私が「ミステリとは何か」を語れるほどミステリに傾倒していないので何とも…というところもあるのですが。

 

気になるのは、表題作。この結末、私はあんまり納得できなかったのですが他の方はどうなんだろうか…。ネットで感想を漁るのもアリとは思うのですが、インターネット上で感想を探し始めると延々と読んでしまうし、飽和しすぎてまとめられなかったりするし…うーん。機会があれば読んでみるか。他の人に「これ読んでどう思った?」と聞きたくなるような話です。

 

火村英生の掘り下げがあったのはファンとしては嬉しい要素でしたね。でも、やっぱりミステリ要素の強いものが読みたい…!おおっ!と驚きたい…!国名シリーズ制覇を目指してちょくちょく読んでいこうと思います。