小説読後の記録棚

宇谷が小説を読んで抱いた感想を書いていきます。

『名探偵の証明』市川哲也

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情報

30年前に活躍した伝説の名探偵、屋敷啓次郎。現世から隠れるようにして暮らす彼にかつての相棒は現代の名探偵、蜜柑花子との対決を持ちかける…。

第23回鮎川哲也賞受賞作。


感想

鮎川哲也賞受賞作を読むのは、多分これで4作目なのですが、今のところハズレに遭ったことがないです。新しい感じがして、とてもスラスラ読んでました。

鮎川哲也賞とは相性が良いのかな、と思いつつ受賞作を新たに読むたびにドキドキしてるんですが、この作品も面白かった。


探偵物、と聞くとイコールで当然のように思い浮かぶのは彼ら、彼女らが事件に遭遇して解決する、という様子。その謎の不思議さや謎を解き明かす時の鮮やかさ、ハッとさせられるトリック、事件の動機に伺える切ない真相などなど…。それらに魅了されてミステリを貪っている所があるのですが、それもこれも名探偵達が魅力的な時間に出くわしてくれるからこそ成り立つのであって。

名探偵ある所に事件あり。だからこそ、周りからやっかまれるというのは想像にかたくない。なんなら漫画の『名探偵○ナン』や『○田一少年』たちを「死神」なんて呼び方をした覚えがある人も少なくないはず(かくいう私もその一人です笑)

そんな葛藤を描いているのに出会ったことはなかったし、その上メインの名探偵は『かつての』名探偵。今はすっかり老いてしまった還暦過ぎのおじさんというのも面白いなぁと思った。語り口もとても読みやすかった。


正直この作品のトリックは難解な物ではなかった。ハッ!と驚かされることは無かった。でも、キャラクターと展開が面白い。

まずキャラクターについて。かつての名探偵に現代の名探偵。名探偵を支える相棒や協力者の存在。そして愛する妻子。それぞれに魅力があって良い。特に名探偵達と娘さんが好みでした。

次にストーリー。「え?こんなに簡単に終わるの?」と思ったら、そこからの流れがとても良かった。しかも最後の終わり方。「えっ…?どうなるの…?」と言わずにはいられない。本当にどうなってまうんや…。

どうやらシリーズで続いているようなので、次作が楽しみです。語り手は交代するのかな?