小説読後の記録棚

宇谷が小説を読んで抱いた感想を書いていきます。

『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫

f:id:chainbook:20210522152936j:plain


情報

亜愛一郎が主人公の短編集1冊目。

泡坂妻夫デビュー作『DL2号機事件』含む短編8作を収録。


感想

櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』がめちゃくちゃおもしろく、魞沢が「ブラウン神父、亜愛一郎に続く…」と紹介されているのを見て、長らく気になっていた亜愛一郎を読んでみた。

結論。早いこと読んでみるべきだった…。

確か西尾維新の書籍(戯言の辞典だったような気がする)で名前だけは知っていたけれど、こんなに魅力的だとは…。

『サーチライトと誘蛾灯』から入ったので魞沢くんが亜の系統であるのも良く分かった。両者ともにこのとぼけた感じがたまらない。亜の場合はイケメンなのに中身は…となっているのもたまらない。ギャップてやつですな。


『亜愛一郎の狼狽』収録短編集はどれも一話完結で探偵だけが共通している連作短編集。登場人物も一話ごとに異なるというのにキャラクターの個性があって面白い。別の話の刑事の名前が出てきた時は「いいねいいねぇ〜。こういうの好きやで〜!」と興奮した(笑)。


以下、各話の簡単な覚書。


第一話 DL2号機事件

動機に驚かされる。読後、「強迫観念とはこのことやな」と思った。


第二話 右腕山上空

中学生と意気投合する亜。そういうとこやぞ。


第三話 曲がった部屋

左右を気にしなさすぎて最後の推理を理解できず読み直してしまった…。最初から把握していたらはっとさせられたに違いないのに…。


第四話 掌上の黄金仮面

亜の一言から始まる回答編に圧倒される。


第五話 G線上の鼬

面白い。無意識に潜む鍵。


第六話 掘出された童話

亜の欲を持った様子が見られて一気に好感度が上がった。そのあとすぐに引き下がったのもまた彼らしくて良い。


第七話 ホロボの神

序盤、全く別の話になったかと焦る。過去と現在の切り替わりがスムーズで読みやすかった。トリックも面白い。


こんなにも魅力的な探偵とは知らなかった。それにトリックの解き方も爽快で登場人物キャラクターも魅力的。最高。

櫻田さんの後書きやこの本の後書きから作者自身の人柄もとても良い印象で、そういうのはあまり気にしないけど、良いなぁとほっとするような気持ちになった。シリーズ別作品も読もうと思う。